フェノール酸化酵素|詳細 - Astamuse(アスタミューゼ)
以下の情報は、特許登録日時点(2010年01月29日)のものです。
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0001
発明の分野
本発明は、新規なフェノール酸化酵素に関し、とりわけ、スタキボトリス(Stachybotrys)属の菌株から得られる新規なフェノール酸化酵素、およびこれらの酵素を産生するスタキボトリス(Stachybotrys)属の新規な菌株に関する。本発明は、スタキボトリス(Stachybotrys)属由来のフェノール酸化酵素を発現する方法および宿主細胞、ならびに発現系を作出する方法を提供する。本発明はまた、色彩化合物を変化させる方法およびファブリックの洗浄の際の移染防止の方法を提供する。さらに本発明は、しみ抜きまたは移染防止を目的とする酵素配合洗浄剤組成物に関する。
0002
発明の背景
フェノール酸化酵素は酸化還元反応、すなわち、電子供与体(通常はフェノール性化合物)から分子状酸素(これは通常電子受容体として作用する)へ電子が輸送され、該酸素がH2O分子に還元される反応を触媒する作用を有する。電子供与体としては広範な種類のフェノール化合物を用いることができるが、フェノール酸化酵素は電子受容体としての分子状酸素に非常に特異的である。
0003
フェノール酸化酵素は、洗浄剤産業、紙およびパルプ産業、テキスタイル(繊維)産業、ならびに食品産業などを含む広範な用途に使用することができる。洗浄剤産業においては、フェノール酸化酵素は、洗浄剤を使用する洗浄中に溶液中において、あるテキスタイルから別のテキスタイルへ染料が移染するのを防ぐ目的で使用されており、この用途は通常、移染防止と称される。
0004
ほとんどのフェノール酸化酵素は酸性のpH領域が最適pHであるが、中性またはアルカリpH領域では不活化される。
0005
フェノール酸化酵素は、アスペルギルス(Aspergillus)属、パンカビ(Neurospora)属、ボトリチス(ハイイロカビ)(Botrytis)属、ヒラタケ(Pleurotus)属、ツリガネタケ(Fomes)属、フレビア(Phlebia)属、タマチョレイタケ(Polyporus)属、茎腐病菌(Rhizoctonia)属、およびマツオウジ(Lentinus)属などの広範な種類の菌類によって産生されることが知られている。しかしながら、洗浄剤を使用する洗浄法および組成物に使用するため、アルカリ領域が至適pHであるフェノール酸化酵素、およびフェノール酸化酵素を天然に産生することができる微生物を確認、単離する必要がある。
0006
発明の概要
本発明はスタキボトリス(Stachybotrys)属から得られる新規なフェノール酸化酵素に関し、この酵素は、特に中性およびアルカリ性のpHにおいて異なる化学構造を有する染料および色彩化合物が関与している色彩を変化させることができる。本発明のフェノール酸化酵素の色彩変化能に基づき、例えば、パルプおよび紙の漂白、ファブリックのしみ抜き、洗浄剤およびテキスタイルへの応用における移染防止などにこの酵素を使用することができる。本発明を一つの面からみると、フェノール酸化酵素はエンハンサー不在下において色彩を変化させることができる。本発明を別の面からみると、フェノール酸化酵素はエンハンサー存在下において色彩を変化させることができる。
0007
本発明の一つの実施態様においては、フェノール酸化酵素はスタキボトリス(Stachybotrys)属から得ることができる。別の実施態様においては、スタキボトリス(Stachybotrys)属酵素は、以下に記載されている群の菌株から選択される:スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)(特に、スタキボトリス・パービスポラ・バール・ヒューズ(S. parvispora var. hughes)MUCL38996を含む)、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)(特に、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL38898を含む)、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL9485、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL30782、スタキボトリス・カンパレンシス(S. kampalensis)MUCL39090、スタキボトリス・テオブロマ(S. theobromae)MUCL39293、ならびに、スタキボトリス・ビスビ(S. bisbyi)、スタキボトリス・シリンドロスポラ(S. cylindrospora)、スタキボトリス・ディクロア(S. dichroa)、スタキボトリス・エナンセス(S. oenanthes)、およびスタキボトリス・ニラゲリカ(S. nilagerica)。一つの面からみると、本発明は、SDSポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)による測定から、分子量が約38kDであることが確認されているフェノール酸化酵素を提供する。別の面からみると、本発明は、SDSポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)による測定から、分子量が約30.9kDであることが確認されているフェノール酸化酵素を提供する。
0008
スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)またはスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)から得た部分精製フェノール酸化酵素を煮沸し、SDSポリアクリルアミド電気泳動にかけると、3種類の分子量バンドが観察された。スタキボトリス・パルビスポラ(S. parvispora)MUCL38996から得られたフェノール酸化酵素については、3つの分子量は約70kD、45kDおよび22.1kDであった。スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL38898から得られたフェノール酸化酵素については、3つの分子量は約58.4kD、46.1kDおよび19.7kDであった。本発明は、これらの分子量を有するものを単独、または少なくとも1つの他の分子量のものと組み合わせたすべてのフェノール酸化酵素活性を包含する。本発明はまた、煮沸後に見かけの分子量の増加を示すすべてのフェノール酸化酵素活性も包含する(分子量はSDSポリアクリルアミド電気泳動によって測定する)。
0009
本発明はまた、染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができ、さらに、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996によって天然に産生されるフェノール酸化酵素および/またはスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL38898によって産生されるフェノール酸化酵素に共通の少なくとも一つの抗原性基を有しているフェノール酸化酵素に関する。ここで、抗原性はオクテロニー(オクタロニー)(Ouchterlony)法によって測定し、抗原性を有する酵素は免疫沈降線を呈する。一つの実施態様においては、免疫沈降線は1型(Type 1)ラインである。一つの実施態様においては、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora )MUCL38996によって天然に産生されるフェノール酸化酵素に共通の少なくとも一つの抗原性基を有するフェノール酸化酵素は、スタキボトリス(Stachybotrys)属から得られる。本発明はスタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素変異体が染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができる限り、この変異体をも包含する。
0010
さらに別の実施態様においては、本発明は、スタキボトリス(Stachybotrys)属から得られるフェノール酸化酵素をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。ここで、このポリヌクレオチドは、染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができるフェノール酸化酵素をコードする限り、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3との同一性が少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%および少なくとも95%である核酸配列を含んでいる。本発明は、ストリンジェンシーが中程度から高い条件下において、SEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3に示すポリヌクレオチドにハイブリダイゼーションすることができる、またはそれらと相補的なポリヌクレオチド配列をも包含する。本発明はまた、SEQ ID NO:2に示すアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを提供する。好ましい実施態様においては、ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3に示す核酸配列を有する。本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターおよび宿主細胞をも提供する。
0011
さらに本発明は、スタキボトリス(Stachybotrys)属から得られるフェノール酸化酵素を産生する方法に関する。従って、本発明は以下の工程を含む該酵素を産生する方法を提供する:スタキボトリス(Stachybotrys)属から得られる該フェノール酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を得、ここで該酵素は、SEQ ID NO:2に示すアミノ酸配列に少なくとも65%一致する。該フェノール酸化酵素を産生するのに適した条件下において該宿主細胞を培養する。および、必要に応じて、産生された該フェノール酸化酵素を回収する。本発明はまた、組換え宿主細胞を培養する工程を含む、フェノール酸化酵素の産生方法を提供する。この組換え宿主細胞は、スタキボトリス(Stachybotrys)属から得られるフェノール酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを発現することを特徴とし、該酵素は、SEQ ID NO:2に示すアミノ酸配列に少なくとも65%一致しており、必要に応じて該フェノール酸化酵素を回収する。一つの実施態様においては、ポリヌクレオチドは複製プラスミド上に存在しており、別の実施態様においては宿主ゲノムに組み込まれている。
0012
一つの実施態様においては、ポリヌクレオチドはSEQ ID NO:1に示す配列を含む。別の実施態様においては、ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:3に示す配列を含む。
0013
本発明はまた、本発明のフェノール酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む組換え宿主細胞を産生する方法を提供する。この方法は、スタキボトリス(Stachybotrys)属から得、SEQ ID NO:2に示すアミノ酸配列に少なくとも65%一致している該フェノール酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入し、必要に応じて、該フェノール酸化酵素の産生に適した条件下で該宿主細胞を培養する工程を含む。一つの実施態様においては、ポリヌクレオチドはSEQ ID NO:1に示す配列を含む。別の実施態様においては、ポリヌクレオチドはSEQ ID NO:3に示す配列を含む。また別の実施態様においては、ポリヌクレオチドは、ストリンジェンシーが中程度から高い条件下においてSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3にハイブリダイゼーションすることができる、またはSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3と相補的である。
0014
本発明を一つの面からみると、フェノール酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む組換え宿主細胞としては、糸状菌類、酵母菌およびバクテリアが挙げられる。一つの実施態様においては、宿主細胞は、アスペルギルス(Aspergillus)属、トリコデルマ(Trichoderma)属およびケカビ(Mucor)属などを含む糸状菌類である。好ましい実施態様においては、糸状菌宿主細胞として、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(A. niger var. awamori)およびトリコデルマ・レーセイ(T. reesei)が挙げられる。
0015
本発明の別の実施態様においては、宿主細胞は酵母菌であり、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、ピチア(Pichia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、クルイベロミセス(Kluyveromyces)属およびヤロウィア(Yarrowia)属が挙げられる。さらに別の実施態様においては、サッカロミセス(Saccharomyces)属は麦酒酵母菌(S. cerevisiae)である。また別の実施態様においては、宿主細胞は、バチルス(Bacillus)属などのグラム陽性バクテリアまたはエシェリヒア(Escherichia)属などのグラム陰性バクテリアである。本発明は、そのような宿主細胞からフェノール酸化酵素を精製する方法をも包含する。
0016
本発明はまた、アミノ酸を含む洗浄剤組成物を提供し、このアミノ酸は、酵素が染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができる限りは、SEQ ID NO:2に示すアミノ酸配列を有するフェノール酸化酵素との同一性が少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%および少なくとも95%である。一つの好ましい実施態様においては、アミノ酸はSEQ ID NO:2に示す配列を有する。別の好ましい実施態様においては、フェノール酸化酵素は、SEQ ID NO:1に示す配列を含むポリヌクレオチドによってコードされている。別の実施態様においては、フェノール酸化酵素は、SEQ ID NO:3に示す配列を含むポリヌクレオチドによってコードされている。さらに別の実施態様においては、ポリヌクレオチドは、ストリンジェンシーが中程度から高い条件下においてSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3にハイブリダイゼーションすることができる、またはSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3と相補的である。
0017
本発明はまた、ファブリック上にしみとして生じる染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させる方法を包含し、この方法には、酵素が染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができる限りは、SEQ ID NO:2に示すアミノ酸配列を有するフェノール酸化酵素との同一性が少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%および少なくとも95%であるアミノ酸配列を含む組成物にファブリックを接触させる工程を含む。この方法の一つの実施態様においては、アミノ酸はSEQ ID NO:2に示す配列を有する。本方法を一つの面からみると至適pHは5.0〜11.0であり、別の面からみると至適pHは7〜10.5であり、さらに別の面からみると至適pHは8.0〜10である。本発明を一つの面からみると至適温度は20〜60℃であり、別の面からみると至適温度は20〜40℃である。本発明は、洗浄剤およびテキスタイルへの用途において移染を防止する方法をも提供する。
0018
本発明はまた、本発明のスタキボトリス(Stachybotrys)属由来のフェノール酸化酵素を単独またはエンハンサーおよびその他の洗浄剤材料(プロテアーゼ類、アミラーゼ類および/もしくはセルラーゼ類など)と組み合わせて含有する洗浄剤組成物を提供する。
0019
本発明の洗浄剤組成物に使用することができるエンハンサーとしては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:フェノチアジン−10−プロピオン酸(PPT)、10−メチルフェノチアジン(MPT)、フェノキサジン−10−プロピオン酸(PPO)、10−メチルフェノキサジン(MPO)、10−エチルフェノチアジン−4−カルボン酸(EPC)、アセトシリンゴン、シリンガアルデヒド、メチルシリンゲート、2,2'−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン)−6−スルフォネート(ABTS)および4−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸またはこれらの誘導体。
0020
図面の説明
図1は、スタキボトリス・パービスポラ(Stachybotrys parvispora)由来のフェノール酸化酵素による種々の発色団の酸化に関するpHプロファイルを示す。
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0021
図2は、スタキボトリス・パービスポラ(Stachybotrys parvispora)由来のフェノール酸化酵素とミロテシウム・ベラカリア(Myrothecium verrucaria)由来のビリルビン酸化酵素との間で比較した、ダイレクトブルー1の脱色に関するpHプロファイルを示す。
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0022
図3は、SDSポリアクリルアミドゲルによって測定したスタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素の分子量を示す。レーン1は非煮沸サンプルであり、レーン2は煮沸サンプルである。
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0023
図4および5は、スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素(St.ch.と表記している)の断片のアミノ酸配列をミロテシウム・ベラカリア(Myrothecium verrucaria)由来のビリルビン酸化酵素(biliru oxidasと表記)およびレプトスリックス・ディスコフォラ(Leptothrix discophora)由来のマンガン酸化タンパク質(mpf-Aと表記)のそれと並べて示す。
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0024
図6および7は、スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素の核酸配列(SEQ ID NO:1)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)を示す。
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0025
図8〜10は、スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素のゲノム配列(SEQ ID NO:3)を示す。
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0026
図11は、スタキボトリス(Stachybotrys )属由来のフェノール酸化酵素のアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)とビリルビン酸化酵素(SEQ ID NO:4)のアミノ酸配列とを並べて示す。
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0027
図12は、アスペルギルス(Aspergillus)内においてスタキボトリス(Stachybotrys )属由来のフェノール酸化酵素を発現させるために使用したベクターpGAPTを示す。塩基番号1番〜1134番にはアスペルギルス・ニガー(黒色麹菌クロカビ)(Aspergillus niger)のグルコアミラーゼ遺伝子のプロモーターを含む。塩基番号1227番〜1485番および3079番〜3100番にはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のグルコアミラーゼ遺伝子のターミネーターを含む。菌類の形質転換マーカーとして、1486番〜3078番にアスペルギルス・ニデュランス(為巣性麹菌)(Aspergillus nidulans)のpyrG遺伝子を挿入した。大腸菌(E. coli)において増殖させるため、プラスミドの残りの部分にはpUC18の配列を含む。SEQ ID NO:1に示すスタキボトリス(Stachybotrys )属由来のフェノール酸化酵素をコードする核酸をBgl IIおよびXba I制限酵素部位にクローニングした。
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0028
図13および14は、実施例17において記載しているアスペルギルス(Aspergillus)内において発現したスタキボトリス(Stachybotrys )属のPCR断片の核酸配列を示す。
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0029
詳細な説明
定義
本明細書において使用しているフェノール酸化酵素とは、酸化還元反応を触媒し、電子受容体として分子状酸素および過酸化水素に特異的な酵素をさす。本発明のスタキボトリス(Stachybotrys)属由来のフェノール酸化酵素を煮沸し、SDS電気泳動を行った場合、3種類の分子量を示すものが観察される。本明細書において使用している「酵素」とは、これらの分子量のものを単独、または少なくとも一つの他の分子量のものと組み合わせることにより、染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができるような分子量を有するものを包含する。
0030
本明細書において使用しているスタキボトリス(Stachybotrys)属とは、染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができる任意のスタキボトリス(Stachybotrys)属をさす。本発明は、天然から単離されるスタキボトリス(Stachybotrys)属の誘導株を包含し、この誘導株には、染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができるフェノール酸化酵素を産生することができる限り、子孫株および突然変異株を含む。好ましい実施態様においては、フェノール酸化酵素はスタキボトリス(Stachybotrys)属から得ることができ、実施例4および5に記載している方法に従って精製する。
0031
リベットをハンマーにどれだけのエネルギー
本明細書において使用しているフェノール酸化酵素に関して、「得ることができる」とは、言及している特定の微生物株に由来する、または天然に産生されるフェノール酸化酵素と同等のものをさす。例えば、スタキボトリス(Stachybotrys)属から得ることができるフェノール酸化酵素とは、スタキボトリス(Stachybotrys)属によって天然に産生されるフェノール酸化酵素をさす。本発明は、スタキボトリス(Stachybotrys)属によって産生されたフェノール酸化酵素と一致はするが、遺伝子組換え技術を用い、該フェノール酸化酵素をコードする核酸を用いて形質転換した、スタキボトリス(Stachybotrys)属以外の微生物によって産生されたフェノール酸化� �素を包含する。同等とは、タキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996および/またはスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL38898から得ることができるフェノール酸化酵素に共通の少なくとも一つの抗原性基を有していることであり、オクテロニー(オクタロニー)(Ouchterlony)法によって測定したときに、抗原性を有する酵素は免疫沈降線を呈する。別の言い方をすれば、同等であるとは、ストリンジェンシーが中程度から最高の条件下においてSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3に示す配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドによってコードされているフェノール酸化酵素を意味している。同等であるとは、SEQ ID NO:2に示すアミノ酸配列を有するフェノール酸化酵素との同一性が少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%であるフェノール酸化酵素を意味している。核酸レベルでの同一性%はFastAプログラムを用いて判断し、アミノ酸レベルでの同一性%はTFastAプログラムを用いて判断するが、これらは共にペアソン(Pearson)およびリップマン(Lipman)の方法(PNAS USA, 1988, 85: 2444- 2448)を用いている。別の方法としては、ヨタン・ハイン法(Jotun Hein Method)(1990, Method in Enzymology, 183: 626- 645)を利用したDNAstar(ディーエヌエースター(DNASTAR)社、ウィスコンシン州マディソン、53715)の中のMegAlignプログラムを用いて同一性を判断するが、このとき、ギャップペナルティー=11、ギャップ長ペナルティー=3およびペア幅整列パラメーターKtuple=2とする。本発明は、本発明のフェノール酸化酵素の突然変異体、変種および誘導体が、天然に産生されるフェノール酸化酵素に特徴的な活性を少なくとも一つ保持している限りは、これらの突然変異体、変種および誘導体をも包含する。
0032
本明細書において使用している「色彩化合物」とは、テキスタイルに色彩を施す物質または目に見えるしみを呈する物質をさす。「繊維およびテキスタイル技術辞典(Dictionary of Fiber and Textile Technology)」(ヘキスト・セラネーゼ(Hoechst Celanese)社、(1990)、ノースカロライナ州シャーロット、私書箱32414号、28232)に定義されているように、染料とは、化学反応、吸収または分散によって繊維内に浸透する色彩化合物である。染料の例としては、ダイレクトブルー染料、酸性ブルー染料、ダイレクトレッド染料、反応性ブルー染料および反応性ブラック染料などが挙げられる。一般的に使用されるテキスタイル染料の一覧は「カラーインデックス(Colour Index)第3版」1〜8巻に掲載されている。目に見えるしみを呈する物質の例としては、ポリフェノール類、カロテノイド類、アントシアニン類、タンニン類、メイラード(Maillard)反応生成物などが挙げられる。
0033
本明細書において使用している「染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができる」または「色彩化合物の変化」とは、見かけの色彩が変化する(すなわち、色彩が目に見えて退色する、薄くなる、脱色される、漂白される、または除去される)、または色彩は影響を受けないが化合物が変化する(染料の再沈着が阻害されるなど)、などのような酸化を介しての染料または化合物の変化を意味する。本発明は、如何なる方法による色彩の変化をも包含し、それらには例えば、任意の方法によるファブリックのしみからの色彩化合物の完全除去、ならびに色彩の濃度の減少もしくは化合物の色彩の変化などが含まれる。
0034
「移染防止」効果または「染料の再沈着防止」効果とは、フェノール酸化化合物の色彩変化活性作用によるものであり、これはすなわち、可溶性染料または色彩構成成分が酸化され、または漂白され、ファブリックに色彩として再沈着することができない、あるいは染料または色彩構成成分が水溶性となり、洗い流されてしまうような、色彩変化を伴わない基質変化作用である。フェノール酸化化合物を単独またはエンハンサーと共に使用し、洗浄液中で可溶性または分散している染料または色彩化合物を酸化して無色化する能力により、色彩化合物の再沈着効果を妨げることができる。
0035
本明細書において使用しているフェノール酸化酵素に関する「突然変異体および変異種」とは、構造遺伝子のDNAヌクレオチド配列を変化させることにより、ならびに/または、アミノ酸配列および/もしくはフェノール酸化酵素の構造の直接置換および/もしくは変更などにより、天然に存在するアミノ酸配列および/またはそれらの構造を変化させることによって得られるフェノール酸化酵素をさす。本明細書において使用しているフェノール酸化酵素の「誘導体」とは、天然に存在するフェノール酸化酵素のアミノ酸配列の全長もしくは変異種フェノール酸化酵素のアミノ酸配列の一部またはフラグメントをさし、天然に存在するフェノール酸化酵素の活性の少なくとも一つを保持している。本明細書において使用� ��ている微生物菌株に関する「突然変異体および変異種」とは、天然から単離されたものとは何らかの形で異なっている細胞をさし、これらは例えば、フェノール酸化酵素をコードする構造遺伝子などのDNAヌクレオチド配列が変化している、フェノール酸化酵素の産生を増加させる目的で天然から単離されたものを変化させている、フェノール酸化酵素の発現効率を上げるためのその他の変化などである。
0036
「エンハンサー」または「メディエーター」とは、フェノール酸化酵素に作用し、染料および色彩化合物による色彩を変化させることができる任意の化合物、またはフェノール酸化酵素の酸化活性を増強させる化合物をさす。エンハンサーは一般的には有機化合物である。
0037
フェノール酸化酵素
本発明のフェノール酸化酵素は酸化還元反応を触媒する作用がある。すなわち、電子供与体(通常はフェノール性化合物)から分子状酸素または過酸化水素(これらは電子受容体として作用する)へ電子が輸送され、該酸素が水分子に還元される。このような酵素の例としては、ラッカーゼ類(EC1.10.3.2)、ビリルビン酸化酵素類(EC1.3.3.5)、フェノール酸化酵素(EC1.14.18.1)、カテコール酸化酵素(EC1.10.3.1)などが挙げられる。
0038
本発明はスタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素を包含する。この酵素は、染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができ、また、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996によって天然に産生されるフェノール酸化酵素および/またはスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL38898によって天然に産生されるフェノール酸化酵素に共通に存在する抗原性基のうちの少なくとも一つを有する。共通の抗原性決定因子の存在を判断する一つの方法としては二重免疫拡散試験(オクテロニー(オクタロニー)(Ouchterlony)法)があり、これは、クラウゼン(Clausen),J らによって記載されているプロトコールおよび指定された条件(「高分子の同定および評価に関する免疫化学技術(Immunochemical Technique for the Identification and Estimation )第3版」(1988)、バードン(Burdon),R.H.およびP.H. バン・ニッペンバーグ(van Knippenberg)編、281ページ(付録11、微量技術(micro technique)))に従って実施し、クラウゼン(Clausen),J らによって記載されているプロトコールおよび指定された条件(同上、第6章、p.143-146)に従って判定するものである。共通の抗原性決定因子の存在を判断する別の方法としては、ウェスタンブロット(「分子生物学における最新プロトコール集(Current Protocols in Molecular Biology )第2巻」(ジョン・ウィレー&サンズ(John Wiley & Sons)社、第10.8項、イムノブロッティングおよび免疫検出(Immunoblotting and Immunodetection ))によるものがある。
0039
スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996から得られ、実施例4および5に従って産生されたフェノール酸化酵素は、SDS-PAGE分析法による測定から、見かけの分子量は約38kDであり、実施例6から、見かけの等電点は2.8以下である。スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL38898から得られ、実施例4および5に従って産生されたフェノール酸化酵素は、SDS-PAGE分析法による測定から、見かけの分子量は約30.9kDである。
0040
本発明は、SEQ ID NO:2に示すアミノ酸配列を有するフェノール酸化酵素との同一性が少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%であるスタキボトリス(Stachybotrys)属由来のフェノール酸化酵素を包含する。
0041
フェノール酸化酵素をコードする核酸
本発明は、ポリヌクレオチドによってコードされているフェノール酸化酵素が染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができる限り、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3に示すポリヌクレオチドとの同一性が少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%および少なくとも95%であるポリヌクレオチドを有するスタキボトリス(Stachybotrys)属から得られるフェノール酸化酵素をコードするポリヌクレオチドを包含する。好ましい実施態様においては、フェノール酸化酵素は、SEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3に示すポリヌクレオチド配列を有する、またはSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3にハイブリダイズすることができる、またはそれらと相補的である。当業者においては自明であるが、遺伝子コードの縮重により、様々なポリヌクレオチドがSEQ ID NO:2に示すフェノール酸化酵素をコードすることができる。本発明はそのようなすべてのポリヌクレオチドを包含する。
0042
フェノール酸化酵素をコードする核酸は、当該分野において既知の標準的な手法を用いて得ることができ、例えば、化学合成、cDNA クローニング、PCRもしくはゲノムDNAのクローニングにより、DNA(すなわち、DNA「ライブラリー」)またはそれらのフラグメントをクローニングする、スタキボトリス(Stachybotrys)属などの所望する細胞から精製するなどである(例えば、サンブルック(Sambrook)ら、(1989)「分子クローニング−実験室マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」第2版、コールドスプリングハーバーラボラトリープレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)(ニューヨーク州コールドスプリングハーバー);グローヴァー(Glover),D.M.編(1985)「DNAクローニング:実践的アプローチ(DNA Cloning: A Practical Approach)」第1巻、第2巻、MRLプレス(MRL Press)社(イギリス、オックスフォード))。ゲノムDNAから得た核酸配列には、コード領域に加えて調節領域を含んでいることがある。起源が何であれ、本発明のフェノール酸化酵素をコードする単離された核酸を遺伝子増幅の目的で適切なベクターに分子クローニングする。
0043
ゲノム由来の遺伝子の分子クローニングにおいては、DNAフラグメントを作出するが、このうちのいくつかが所望する遺伝子をコードする。種々の制限酵素を用い、特異的部位においてDNAを解裂することができる。別の方法としては、マンガン存在下、DNAseを用いてDNAをフラグメントにすることができ、あるいは、例えば超音波処理などによってDNAを物理的に分断することができる。直線状DNAフラグメントは、標準的な手法(例えば、アガロースおよびポリアクリルアミドゲル電気泳動、PCRならびにカラムクロマトグラフィーなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない)により、大きさに従って分けることができる。
0044
核酸フラグメントが作出されると、多数の方法によってフェノール酸化酵素をコードする特定のDNAフラグメントを確認することができる。例えば、本発明のフェノール酸化酵素をコードする遺伝子もしくはそれについての特異的RNA、またはそれらのフラグメント(プローブまたはプライマーなど)を単離、ラベルし、ハイブリダイゼーションアッセイに使用して作出された遺伝子を検出する(ベントン(Benton),W.およびデービス(Davis),R., 1977, Science 196: 180;グランステイン(Grunstein),M.およびホグネス(Hogness),D.,1975, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72: 3961)。プローブと実質的に類似性を有するこのようなDNAフラグメントは、ストリンジェント条件下においてハイブリダイズする。
0045
本発明は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3をプローブまたはプライマーとして使用し、ゲノム由来またはcDNA由来のいずれの核酸であってもスクリーニングすることができる核酸ハイブリダイゼーション技術によって確認されるスタキボトリス(Stachybotrys)属由来のフェノール酸化酵素を包含する。スタキボトリス(Stachybotrys)属から得られるフェノール酸化酵素をコードしており、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3との同一性が少なくとも65%である核酸は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3をプローブとして、またはその一部もしくはフラグメントを用い、DNA-DNAハイブリダイゼーションもしくはDNA-RNAハイブリダイゼーションまたは増幅によって検出することができる。従って、本発明は、本発明に包含されるフェノール酸化酵素をコードする核酸を検出する方法を提供するものであり、この方法は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3のの核酸配列の一部または全部とゲノム由来もしくはcDNA由来のスタキボトリス(Stachybotrys)属の核酸とをハイブリダイズすることを含む。
0046
本発明はまた、ストリンジェンシーが中程度から最高の条件下においてSEQ ID NO:1示すヌクレオチド配列にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド配列を包含する。ハイブリダイゼーションの条件は、バーガー(Berger)およびキンメル(Kimmel)の教示(1987, 「分子クローニング技術ガイド 酵素学における方法(Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology )」第152巻、アカデミック・プレス(Academic Press)(カリフォルニア州サンディエゴ)、この文献を参考として本明細書中に取り入れておく)に従い、核酸結合コンプレックスの融点(Tm)に基づいて決定し、「ストリンジェンシー」の定義を以下に記述する。
0047
「ストリンジェンシーが最高」の状態は、一般的に約Tm−5℃(プローブのTmより5℃低い)で生じ、「ストリンジェンシーが高い」状態は、一般的にTmより約5〜10℃低い温度で生じ、「ストリンジェンシーが中程度」の状態はTmより約10〜20℃低い温度で生じ、「ストリンジェンシーが低い」状態はTmより約20〜25℃低い温度で生じる。当業者においては自明であるが、最高のストリンジェンシーでのハイブリダイゼーションは同一のポリヌクレオチド配列の確認または検出に用いることができ、また、低いもしくは中程度のストリンジェンシーでのハイブリダイゼーションはポリヌクレオチド配列の相同体(ホモログ)の確認または検出に用いることができる。
0048
本発明において使用している「ハイブリダイゼーション」とは、「塩基の対合によって核酸の一本の鎖が相補的鎖と接合する過程」(クームス(Coombs), J.(1994)「バイオテクノロジー辞典(Dictionary of Biotechonology)」、ストックトン・プレス(Stockton Press)(ニューヨーク州ニューヨーク))を含む。
0049
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術において進行する増幅過程については、ディフェンバック(Dieffenbach), CWおよびGS, ヴェクスラー(Dveksler)(1995、「PCRプライマー 実験室マニュアル(PCR Primer, a Laboratory Manual)」、コールドスプリングハーバープレス(Cold Spring Harbor Press)(ニューヨーク州プレインビュー))に記載されている。SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3由来の少なくとも10個のヌクレオチドおよび約60個までのヌクレオチドから構成される核酸配列、好ましくは約12〜30個、より好ましくは約25個のヌクレオチドから構成される核酸配列をプローブまたはプライマーとして用いることができる。
0050
cDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーから本発明の核酸構築体を単離するための好ましい方法は、SEQ ID NO:2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質のアミノ酸配列に基づいて調製した縮重オリゴヌクレオチドプローブを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用する方法である。例えば、米国特許第4,683,202号に記載されている技術を用いてPCRを行うことができる。
0051
発現系
本発明は、スタキボトリス(Stachybotrys)属から得られるフェノール酸化酵素の産生を宿主微生物(菌類、酵母菌およびバクテリアなど)で行うための宿主細胞、発現方法および発現系を提供する。本発明のフェノール酸化酵素をコードする核酸が得られれば、当該分野において既知の技術を用いて、この核酸を含む組換え宿主細胞を構築することができる。分子生物学的技術については、サンブルック(Sambrook)ら、「分子クローニング−実験室マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」第2版、(1989)コールドスプリングハーバーラボラトリープレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)(ニューヨーク州コールドスプリングハーバー)に記載されている。スタキボトリス(Stachybotrys)属から得られるフェノール酸化酵素をコードしており、かつSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3に示すポリヌクレオチドとの同一性が少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%および少なくとも95%であるかまたは、ストリンジェンシーが中程度から高い条件下においてSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:3にハイブリダイゼーションすることができる、もしくはそれらと相補的である核酸を得、適切なベクターを用いて宿主細胞内に形質転換することができる。菌類、酵母菌、バクテリアにおけるクローニング、形質転換および発現に適した多様なベクターおよび形質転換カセットならびに発現カセットについては当業者において既知である。
0052
一般的には、ベクターまたはカセットは、核酸の転写および翻訳を指示する配列、選択的マーカー、ならびに自律的複製もしくは染色体への組み込みを行う配列を含んでいる。適切なベクターは、転写開始の調節を行う5'領域、および転写終了の調節を行う3'領域を含むDNAフラグメントを含む。選択された調節領域が宿主細胞内で機能することができる限りは、これらの調節領域は、宿主細胞と同型または異型の遺伝子のいずれに由来するものも用いることができる。
0053
宿主細胞内におけるフェノール酸化酵素の発現稼働に有用な開始調節領域またはプロモーターについては当業者において既知である。実質上は、これらのフェノール酸化酵素の発現を稼働することができるすべてのプロモーターが本発明における使用に適している。フェノール酸化酵素をコードする核酸は、開始コドンを介して、酸化酵素または還元酵素の効率的な発現を目的として選択された発現調節領域に機能発揮できるように連結されている。適切なカセットが構築されると、これを宿主細胞の形質転換に使用する。
0054
一般的な形質転換の手順については「分子生物学に関する最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」第1巻、アウスベル(Ausubel )ら編、ジョン・ウィレー&サンズ(John Wiley & Sons)社、(1987)、第9章に教示されており、ここには、リン酸カルシウム法、PEGおよびエレクトロポレーションを用いる形質転換の記載が含まれている。アスペルギルス(Aspergillus)およびトリコデルマ(Tricoderma)に対しては、PEGおよびカルシウムを用いるプロトプラスト形質転換法を用いることができる(フィンケルステイン(Finkelstein),DB(1992)「形質転換 糸状菌に関するバイオテクノロジー 技術および生成物(Transformation. In Biotechnology of Filamentous Fungi. Technology and Products )」、フィンケルステイン(Finkelstein)およびビル(Bill)編、113-156)。プロトプラストのエレクトロポレーションについては、フィンケルステイン(Finkelstein),DB(1992)「形質転換 糸状菌に関するバイオテクノロジー 技術および生成物(Transformation. In Biotechnology of Filamentous Fungi. Technology and Products )」、フィンケルステイン(Finkelstein)およびビル(Bill)編、113-156に記載されている。分生子器に対する微小物拡大映写衝撃(マイクロプロジェクションボンバードメント:Microprojection Bombardment)については、フンガロ(Fungaro)ら、(1995)「無作為の分生子器に対してマイクロプロジェクションボンバードメントを行うことによる為巣性麹菌(Aspergillus nidulans)の形質転換(Transformation of Aspergillus nidulans by microprojection bombardment on intact conidia )」(FEMS Microbiology Letters 125: 293- 298)に記載されている。アグロバクテリウム(Agrobacterium)属を介した形質転換については、グルート(Groot)ら、(1988)「アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens )を介した糸状菌の形質転換(Agrobacterium tumefaciens-mediated transformation of filamentous fungi)」(Nature Biotechnology 16: 839- 842)に記載されている。サッカロミセス(Saccharomyces)属の形質転換に関しては、酢酸リチウムを介した形質転換、ならびにPEGおよびカルシウムを介したプロトプラスト形質転換、さらにエレクトロポレーション技術による形質転換が当業者において既知である。
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0055
本発明のフェノール酸化酵素をコードする配列を含み、タンパク質を発現する宿主細胞は、当業者に既知である種々の手段によって確認することができる。このような手段としては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:DNA-DNAハイブリダイゼーションもしくはDNA-RNAハイブリダイゼーション、ならびにタンパク質バイオアッセイもしくはイムノアッセイ技術(核酸またはタンパク質の検出および/または定量のための膜、液体、もしくはチップを用いたアッセイ手法を含む)など。
0056
本明細書に記載しているように、スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)から得ることができるフェノール酸化酵素をコードするゲノム配列(SEQ ID NO:3)を単離し、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)およびトリコデルマ・レーセイ(Trichoderma reesei )において発現させた。スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)(MUCL38898)から得ることができるcDNA(SEQ ID NO:1)を単離し、麦酒酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)において発現させた。
0057
フェノール酸化酵素の活性
本発明のフェノール酸化酵素は、電子受容体に関しては分子状酸素および過酸化水素に対して非常に特異的であるが、電子供与体としては多様な種類のフェノール性化合物を用いることができる。
0058
特定の基質および反応条件(例えば、温度、エンハンサーの在不在など)にもよるが、個々のフェノール酸化酵素の酸化反応には至適pHが存在する。例えば、実施例4の記載に従って産生されたスタキボトリス・パービスポラ(Stachybotrys parvispora)のフェノール酸化酵素の場合は、ABTSを基質とし、20℃、2分間インキュベートして測定した場合の至適pHは約5.0〜約7.0であり、シリンガアルディジンを基質とし、20℃、2分間インキュベートして測定した場合の至適pHは約6.0〜約7.5であり、2,6−ジメトキシフェノールを基質とし、20℃、2分間インキュベートして測定した場合の至適pHは約7.0〜約9.0であり、グアヤコールを酸化することもできる。
0059
実施例4および5の記載に従って産生され、SEQ ID NO:2の示すアミノ酸配列を有するスタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)(MUCL38898)由来のフェノール酸化酵素の場合は、17.2μgの酵素の存在下、基質としてDMPを用いてインキュベートし、20℃および40℃で測定した場合の至適pHは約8.0であり、1.7μgの酵素の存在下、基質としてABTSを用いてインキュベートして測定した場合の至適pHは約5.0〜7.0である。
0060
フェノール酸化酵素の用途
上述しているように、スタキボトリス(Stachybotrys )属由来のフェノール酸化酵素は、電子受容体として酸素または過酸化水素を使用して、様々な化学構造を有する広範な種類の染料または色彩化合物を酸化することができる。本発明のフェノール酸化酵素に従えば、染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることが望ましい用途(例えば、クリーニングにおいて食べ物のしみを除去するおよび移染防止、テキスタイル、ならびに紙およびパルプ)に用いられる。フェノール酸化酵素の特に重要な特性は、約20〜40℃の温度、中性からアルカリ性領域のpHを含む広範なpH領域における酵素活性レベルの高さである。特に、pH約7.0〜約10.5、温度約20〜35℃において高レベルの酵素活性を発揮することができる。
0061
色彩化合物
本発明においては、様々な色彩化合物を本発明のフェノール酸化酵素の酸化の対象とすることができる。例えば、洗浄剤への応用に関しては、ファブリックにしみを生じる色彩物質を対象にすることができる。しみを生じる色彩物質についてのいくつかのタイプまたは分類を以下に示す。
0062
ポルフィリン誘導体構造
ポルフィリン構造(金属を含むことが多い)は、しみを生じる色彩物質の種類の一つである。このような構造としては、血痕中のヘムもしくはヘマチン、植物(たとえば、草やホウレンソウなど)中の緑色の物質であるクロロフィルなどが挙げられる。その他、金属を含まない構造の例としては、ヘムの黄色分解産物であるビリルビンが挙げられる。
0063
タンニン類、ポリフェノール類
タンニン類は、ある種のポリフェノールがポリマーを形成したものである。そのようなポリフェノール類としては、カテキン類、ロイアントシアニン類などが挙げられる(P. リブロー−ガイオン(Ribereau-gayon)「植物性フェノール化合物(Plant Phenolics)」、オリバー(Oliver)およびボイド(Boyd)編、エジンバラ、1972 、pp. 169- 198)。これらの物質は、例えば没食子酸などの構造が単純なフェノール類と縮合することができる。これらのフェノール性物質は、茶のしみ、ワインのしみ、バナナのしみ、桃のしみなどに含まれ、除去が困難なことが知られている。
0064
カロテノイド類
カロテノイド類はトマト(リコペン、赤色)、マンゴー(カロテン、橙黄色)に含まれる色彩物質である(G.E. バートレー(Bartley)ら、「植物細胞(The Plant Cell)」(1995)、第7巻、1027- 1038)。これらは食物のしみ(トマト)に含まれ、特に化学漂白剤の使用を避けるよう指示されている染色ファブリックの場合には、やはり除去が困難なことが知られている。
0065
アントシアニン類
本物質は、多くの果物および花に含まれる色彩の濃い分子である(P. リブロー−ガイオン(Ribereau-gayon)「植物性フェノール化合物(Plant Phenolics )」、オリバー(Oliver)およびボイド(Boyd)編、エジンバラ、1972 、pp. 169- 198)。しみに関連する典型的な例としては、ベリー類およびワインが挙げられる。アントシアニン類はグリコシル化パターンが変化に富んでいる。
0066
メイラード(Maillard)反応生成物
タンパク質/ペプチド構造物の存在下において炭水化物分子の混合物を加熱すると、典型的な黄色/褐色物質が生じる。これらの物質が生じる例としては、油の調理が挙げられ、ファブリックからの除去が困難である。
0067
洗浄中に、染色されたファブリックから他の衣類への移染を防ぐため、洗浄溶液中において染料分子を特異的に漂白することが望ましい。広範な種類のファブリック染料が酸化過程の好適な対象となり、それらには例えば、硫黄染料、建染め染料(バット染料)、直接染料、反応性染料およびアゾ染料などが挙げられる。
0068
エンハンサー
本発明のフェノール酸化酵素が作用することにより、化合物の特性に応じてエンハンサーの存在下または不在下において、染料および色彩化合物が関与している色彩を変化させることができる。ある化合物がフェノール酸化酵素の直接の基質として作用することができる場合には、該フェノール酸化酵素はエンハンサー不在下において、染料または色彩化合物が関与している色彩を変化させることができるが、フェノール酸化酵素が至適活性を発揮するためにはエンハンサーの使用が好ましい。フェノール酸化酵素の直接の基質として作用できない、またはフェノール酸化酵素に直接受け入れられないその他の化合物については、フェノール酸化酵素が至適活性を発揮するため、および色彩の変化のためにエンハンサーが必要である。
0069
エンハンサーについては例えば、1995年1月12日に公開されたWO 95/01426号、1996年3月7日に公開されたWO 96/06930号および1997年3月27日に公開されたWO 97/11217号に記載されている。エンハンサーとしては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:フェノチアジン−10−プロピオン酸(PPT)、10−メチルフェノチアジン(MPT)、フェノキサジン−10−プロピオン酸(PPO)、10−メチルフェノキサジン(MPO)、10−エチルフェノチアジン−4−カルボン酸(EPC)、アセトシリンゴン、シリンガアルデヒド、メチルシリンゲート、2,2'−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン)−6−スルホネート(ABTS)および4−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸またはこれらの誘導体など。
0070
培養
本発明は、スタキボトリス(Stachybotrys )属および天然型の単離株、ならびにそのような菌株および単離株の誘導株を包含し、例えば、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)(特に、スタキボトリス・パービスポラ・バール・ヒューズ(S. parvispora var. hughes)MUCL38996)、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)(特に、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL38898)、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL9485、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL30782、スタキボトリス・カンパレンシス(S. kampalensis)MUCL39090、スタキボトリス・テオブロマ(S. theobromae)MUCL39293、ならびにスタキボトリス・ビスビ(S. bisbyi)、スタキボトリス・シリンドロスポラ(S. cylindrospora)、スタキボトリス・ディクロア(S. dichroa)、スタキボトリス・エナンセス(S. oenanthes)およびスタキボトリス・ニラゲリカ(S. nilagerica)などが挙げられ、これらは本発明のフェノール酸化酵素を産生する。
0071
本発明は、スタキボトリス(Stachybotrys )属 の新規な菌株に関する実質的に生物学的に純粋な培養法を提供し、特に、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora )MUCL38996およびスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL38898の実質的に生物学的に純粋な培養法を提供し、これらからフェノール酸化酵素を精製することができる。
0072
精製
本発明のフェノール酸化酵素は、同化可能な炭素および窒素をその他の必須栄養素と共に含有する栄養培地中、通気下においてフェノール酸化酵素産生性のスタキボトリス(Stachybotrys )属株(例えば、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora )MUCL38996およびスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)MUCL38898など)を培養することによって産生することができる。培地は、当該分野において既知の原理に従って調製することができる。
0073
培養期間中、フェノール酸化酵素産生株はフェノール酸化酵素を細胞外に分泌する。このことにより、例えば、培養ブロスから細胞塊を分離する(例えば、ろ過または遠心分離などによる)ことによって、フェノール酸化酵素の単離および精製(回収)を行うことができる。得られた細胞不含培養ブロスはそのまま使用可能であり、必要であれば濃縮(例えば、エバポレーションまたは限外ろ過などによる)する。必要であれば、フェノール酸化酵素を細胞不含ブロスから分離し、従来から用いられている方法(例えば、カラムクロマトグラフィーなど)によって所望する程度まで精製し、またはさらに結晶化することができる。
0074
本発明のフェノール酸化酵素は、宿主の培養上清の濃縮、それに続く硫酸アンモニウムを用いた分画およびゲル透過クロマトグラフィーにより、該酵素が細胞外に分泌されている培養ブロスから単離、精製することができる。
0075
本発明のフェノール酸化酵素は、用途に応じて調製および使用することができる。例えば、洗浄剤組成物に使用する場合には、米国letters特許第4,689,297号に記載されている手順を用いた被覆固体として、フェノール酸化酵素を培養ブロスから直接調製することができる。さらに、必要に応じて、適切なキャリヤを用い、フェノール酸化酵素を液体に調製することができる。必要であれば、フェノール酸化酵素を不動化することもできる。
0076
本発明は、本発明のスタキボトリス(Stachybotrys )属由来のフェノール酸化酵素を含む発現ベクターおよび組換え宿主細胞、ならびにそれに続くこの組換え宿主細胞からのフェノール酸化酵素の精製をも包含する。
0077
洗浄剤組成物
本発明のスタキボトリス(Stachybotrys )属由来のフェノール酸化酵素は、洗浄剤組成物またはクリーニング組成物として使用することができる。そのような組成物は、フェノール酸化酵素に加えて、例えば、界面活性剤、ビルダー、さらなる酵素(例えば、プロテアーゼ類、アミラーゼ類、リパーゼ類、クチナーゼ類、セルラーゼ類またはペルオキシダーゼ類など)などの従来から用いられている洗浄剤材料を含む。その他の材料としては、エンハンサー、安定化剤、殺菌剤、蛍光増白剤および香料などが挙げられる。洗浄剤組成物は、粉末、水性液体もしくは非水性液体、ペーストまたはゲルなどの任意の適切な物理的形態にすることができる。洗浄剤組成物の例としては、1995年1月12日に公開されたWO 95/01426号および1996年3月7日に公開されたWO 96/06930号に記載されている。
0078
本明細書に記載しているこのようなフェノール酸化酵素を得るにあたっては、説明の目的で以下の実施例を示すが、これらは限定をするためのものではない。本明細書において%で表している希釈、量などについては、特に記載がない限り、重量/容量(w/v)%である。本明細書において、%(v/v)で表している希釈、量などは、容量/容量%を意味している。本明細書において使用している温度は℃である。
0079
実施例1:スタキボトリス・パービスポラ・バール・ヒューズ(S.parvisporavar.hughes)株の単離および確認
土壌サンプルを寒天−寒天栄養培地上で培養することによってスタキボトリス・パービスポラ・バール・ヒューズ(S. parvispora var. hughes)の新規な株を単離し、酸化活性を有する酵素の産生能によって選択した。
0080
この新規な株を、それぞれ、コーンミール寒天(ディフコ(DICFO)社)上、25℃、3週間培養した。
0081
コーンミール寒天上、25℃での増殖が3週間で4cm以下と遅く、分生子器が形成されており、かつその形態的特徴から、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora )の新規な株を確認した。
0082
コーンミール寒天上、25℃、3日間増殖させた後、顕微鏡観察からスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora )の新規な株は5.25×3.75〜4.5mmの大きさの分生子器を形成していることが明らかになった。この分生子器は、表面が粗く起伏があり、暗灰黄緑色の粘性滴に集まっており、環状に集まっている9〜11×3.5〜4.5mmのフィアロ型分生子から発生していた。分生子柄は表面がなめらかであり、長さは200mm程度であった(ヨン(Jong),S.C.およびE.E. デーヴィス(Davis)、Mycotaxon 3:409-485を参照)。
0083
確認されたスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora )は、ブダペスト条約の規定に基づき、1995年12月5日にベルギー微生物統制コレクション(Belgian Coordinates Collections of Microorgamisms )、ルーベンカトリック大学微生物部門(Mycothauqe de l'Universita Catholique de Louvain: MUCL )(ベルギー、ルーベン・ラ・ヌーヴ、3番通りクロープレイス(Place Croix du Sud 3, Louvain-La-Neuve, Belgium , B-1348)に寄託し、受け入れ番号MUCL38996を付与された。
0084
実施例2:スタキボトリス・チャータラム(S.chartarum)株の単離および確認
土壌サンプルを寒天−寒天栄養培地上で培養することによってスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum)(以前はスタキボトリス・アトラ・バール・コーダ(S. atra var. corda)と名付けられていた)の新規な株を単離し、酸化活性を有する酵素の産生能によって選択した。
0085
この新規な株を、それぞれ、コーンミール寒天(ディフコ(DICFO)社)上、25℃、3週間培養した。
0086
コーンミール寒天上、25℃での増殖が3週間で4cm以上と早く、分生子器が形成されており、かつその形態的特徴から、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )の新規な株を確認した。
0087
コーンミール寒天上、25℃、3日間増殖させた後、顕微鏡観察からスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )の新規な株は8〜11×5〜10mmの大きさの分生子器を形成していることが明らかになった。この分生子器は、表面が粗く起伏があり、暗灰黄緑色の粘性滴に集まっており、環状に集まっている10〜13×4〜6mmのフィアロ型分生子から発生していた。分生子柄は表面がなめらかであり、長さは1000mm程度であった(ヨン(Jong),S.C.およびE.E. デーヴィス(Davis)、Mycotaxon 3:409-485を参照)。
0088
確認されたスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )は、ブダペスト条約の規定に基づき、1995年12月5日にベルギー微生物統制コレクション(Belgian Coordinates Collections of Microorgamisms )、ルーベンカトリック大学微生物部門(Mycothauqe de l'Universita Catholique de Louvain: MUCL )(ベルギー、ルーベン・ラ・ヌーヴ、3番通りクロープレイス(Place Croix du Sud 3, Louvain-La-Neuve, Belgium , B-1348)に寄託し、受け入れ番号MUCL38898を付与された。
0089
実施例3:接種のための分生子器ストック懸濁液の調製
実施例1の記載に従って得られたスタキボトリス・パービスポラ(Stachybotrys parvispora)MUCL38996をPDA(ジャガイモデキストロース寒天)プレート(ディフコ(DICFO)社)上で単離した。
0090
約30個の滅菌ガラスビーズ(直径5mm)を含む5mlの0.9%(w/v)のNaClに一つのコロニーを懸濁した。菌糸体の完全な懸濁液が得られるまで、ボルテックスミキサー(ベンダー&ホビン(BENDER & HOBEIN)社)(全速で約15〜20分間)でこの懸濁液を全体的に撹拌した。このホモジネートを数回希釈したもの(10-5〜10-7 )を別々の滅菌PDAプレートに加え、30℃、約5週間インキュベートして分生子器(暗褐色)を形成させた。
0091
約50個の胞子形成コロニーを形成している(暗褐色を呈していることから明らかである)3枚のプレートについて、5mlの0.9%(w/v)のNaClを加え、ガラスロッドで掻き取って分生子を懸濁した。得られた懸濁液を集め、残っている菌糸体を除去するため、ミラクロス(Miracloth)(カルバイオケム(CALBIOCHEM)社)膜を用いてろ過した。得られたろ液が分生子器ストック懸濁液である。
0092
PDAプレート上でのプレート希釈(5mlの0.9%(w/v)のNaCl中)により、得られた懸濁液のタイター(1mlあたりのコロニー形成ユニット(cfu)について測定)を求めた。得られた分生子器ストック懸濁液のタイターは、106〜107cfu/mlであった。
0093
実施例4:フェノール酸化酵素の産生−スタキボトリス・パービスポラ(S.parvispora )からの酵素の産生
グルコースとジャガイモ抽出物を含む20Lのファーメンター(発酵器)は、皮をむき、さいの目に刻んだ4.5kgのジャガイモを15Lの水(ミリ−Q(milli-Q)ろ過したもの)に加えて30分間煮沸し、得られた懸濁液を親水性綿ガーゼ(ステラ(STELLA)社)を用いてろ過し、得られたろ液を集め、300gのグルコースを添加することによって調製した。グルコースを添加したろ液をファーメンターに入れ、120℃、30分間滅菌した。滅菌後のグルコース添加ろ液のpHは5.8であった。
0094
次に、上述の実施例3の記載に従って得られた分生子器ストック懸濁液15mlを20Lのファーメンターに加え、37℃、144時間、発酵を行った。
0095
発酵は、一定量(4.5L/分)の通気下、一定の振とう速度(100RPM(回転/分)、直径13cm)でpH調整をせずに行った。
0096
ファーメンターから培養(発酵)ブロスのサンプル約50mlを採取し、12,000g、約5分間遠心分離した。ペレットから上清を除去した。
0097
以下の標準的なアッセイ手順に従い、酸素によるABTS(2,2'−アゾ−ビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルフォネート))の酸化に基づき、上清中のフェノール酸化酵素活性を測定した:トリス(トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン)/200mMのHCl(pH7.0))、0.9mMのABTS(二アンモニウム塩、シグマ(SIGMA)社)およびアッセイすべき調製物の適量(本実施例においては、以下に記載しているように、上清を水で希釈した)を含む反応液(総量1ml)を用意した。アッセイすべき調製物(本実施例においては上清を希釈したもの)を添加してアッセイ反応を開始し、反応容量を最終的に1mlにした。分光光度計(ファルマシア(Pharmacia)社製ウルトラスペック・プラス(Ultraspec Plus))を用い、2分間、420nmにおける吸光度(OD)を記録することにより、ABTSの酸化によって産生する緑青色を連続的に測定した。1分間にわたる曲線のうちの直線部分から、1分あたりの吸光度の増加率(ΔOD/分)を計算した。
0098
この標準的なアッセイに使用する(酵素)調製物の適量は、アッセイ中のΔOD/分が0.2〜1.0の範囲になるように水で希釈して調整した。
0099
本明細書において使用しているように、1標準ABTS酵素ユニット(以後、1酵素ユニットまたはEUと表す)とは、これらの特定の条件下において、1分間にOD420を1増加させる酵素量であると定義される。
0101
スタキボトリス・チャータラム(S.chartarum )からのフェノール酸化酵素産生
スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )をPDAプレート(ディフコ(DICFO)社)上、約5〜10日間増殖させた。プレート培養物の一部(約1.9cm×1.9cm)を、100mlのPDB(ジャガイモデキストロースブロス)を含む500mlの振とうフラスコに加えた。良好な増殖を示すまで、26〜28℃、150rpm、3〜5日間フラスコをインキュベートした。
0102
次に、1LのPDBを含む2.8Lの振とうフラスコにブロス培養物を加えた。良好な増殖を示すまで、26〜28℃、150rpm、2〜4日間フラスコをインキュベートした。
0103
産生培地を含む10Lのファーメンターを調製した。この中には、1Lにつき以下の量の構成成分を含む:15gのグルコース、1.51gのレシチン、1.73gのt−アコニチン酸、3gのKH2PO4 、0.8gのMgSO4・ 7H2O 、0.1gのCaCl2・2H2O 、1.2gの酒石酸アンモニウム、5gの大豆ペプトン、スタレイ(Staley)7359、1gのベンジルアルコール、1gのツイーン(Tween)20、0.15gのニトリロ三酢酸、0.05gのMnSO4・7H2O 、0.1gのNaCl 、0.01gのFeSO4・7H2O 、0.01gのCoSO4 、0.01gのCaCl2・2H2O 、0.01gのZnSO4・7H2O 、0.001gのCuSO4 、0.001gのAlK(SO4)2・12H2O 、0.001gのH3BO3 、0.001gのNaMoO4・2H2O。次に、ファーメンターに1Lのブロス培養物を加え、一定量(5.0L/分)の通気下、一定の振とう速度(120RPM(回転/分)で、28℃、60時間発酵を行った。pHは6.0に維持した。
0104
酸素によるABTS(2,2'−アゾ−ビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルフォネート))の酸化に基づき、以下のアッセイ手順に従って上清中のフェノール酸化酵素活性を測定した。クベット(吸光管)内でABTS(シグマ(SIGMA)社、0.2ml、4.5mM H2O )およびNaOAc(1.5ml、120mM H2O 、pH 5.0)を混合した。アッセイすべき調製物(本実施例においては上清を希釈したもの)を添加してアッセイ反応を開始し、反応容量を最終的に1.8mlにした。分光光度計を用い、420nmにおける吸光度(OD)を記録することにより、2秒ごとに計14秒間、ABTSの酸化によって生じる色彩を測定した。本実施例においては、1ABTSユニット(1酵素ユニットまたはEACU)とは、1/2分間あたりの420nmにおけるODの変化として定義される(サンプルは希釈しない)。この方法によれば、フェノール酸化酵素活性は培養上清1mlあたり3.5EACUであった。
0105
実施例5:酵素の精製
上述の実施例4の記載に従って得られたスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)の培養ブロスの残りをファーメンターから取り出し、4,500g、15分間、遠心分離を行った。スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )についても同様に精製した。
0106
得られた上清をペレットと分け、分子量10kD以下のものを透過するYM10メンブレンをつけたアミコン(Amicon)限外ろ過ユニットを用いて限外ろ過を行うことにより、0.6Lに濃縮した。
0107
この濃縮液に1.4Lのアセトンを加え、混合した。得られた混合物を20〜25℃、2時間インキュベートした。
0108
インキュベーションに続いて、この混合物を10,000g、30分間遠心分離し、生成したペレットを上清から除去した。このペレットを水に懸濁し、最終的な容量を800mlとした。
0109
得られた懸濁液について、次のような硫酸アンモニウムによる分画を行った:硫酸アンモニウムの結晶(ヤンセン(JANSSEN)社)を懸濁液に加えて40%飽和溶液とし、この混合物をマグネティックスターラーで穏やかに撹拌しながら4℃、16時間インキュベートした。次にこの懸濁液を10,000g、30分間遠心分離し、生成したペレットから上清を除去した。上清に硫酸アンモニウム(ヤンセン(JANSSEN)社)を加えて80%飽和溶液とし、この混合物をマグネティックスターラーで穏やかに撹拌しながら4℃、16時間インキュベートした。次にこの懸濁液を10,000g、30分間遠心分離し、生成したペレットを上清から除去した。このペレットを15mlの水に再懸濁し、セントリプレップ(CETRIPREP)3000(アミコン(AMICON)社)を用いて限外 ろ過することにより、6mlに濃縮した。
0110
実施例4に記載しているように、酸素によるABTSの酸化に基づき、標準的なアッセイ手順に従って懸濁液中のフェノール酸化酵素活性を測定した(ただし、アッセイすべき調製物については濃縮物の再懸濁物であり、上清の希釈物ではない)。測定されたフェノール酸化酵素活性は5200EU/mlであった。
0111
ゲル透過クロマトグラフィーにより、この酵素をさらに精製した。850mlのセファクリルS400高解析用(SEPHACRYL S400 HIGH RESOLUTION)(ファルマシア(PHARMACIA)社)を入れたカラムを50mMのKH2PO4 / K2HPO4 (pH7.0 )を含む緩衝液を用いて平衡化し、上述の6mlの懸濁液をカラムにかけ、50mMのKH2PO4 / K2HPO4 (pH7.0 )を含む緩衝液を流速1ml/分で流した。それぞれのフラクションを得た。
0112
最も高いフェノール酸化酵素活性を有するフラクションを集め、精製フェノール酸化酵素を含有する60mlの懸濁液を得た。
0113
実施例4に記載しているように、酸素によるABTSの酸化に基づき、標準的なアッセイ手順に従って懸濁液中のフェノール酸化酵素活性を測定した。測定されたフェノール酸化酵素活性は390EU/mlであった。
0114
以下に記載しているように、この調製物を酵素のさらなる特性分析に用いた。
0115
実施例6:スタキボトリス・パービスポラ(S.parvispora)由来のフェノール酸化酵素の等電点の測定
スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996によって産生されるフェノール酸化酵素の等電点(pI)を上述の実施例5によって得られた精製された酵素について測定した。
0116
この測定は、ファルマシアDryIEFゲル(Pharmacia DryIEF Gels)を用いたポリアクリルアミドゲル中での等電点電気泳動によって行い、このとき用いたゲルは、2mlのアンフォリン溶液(1容量のファルマシア(Pharmacia)8〜10.5%(w/v)アンフォリンを15容量の脱イオン水に加えたもの)で再水和し、メーカーの推奨するプロトコールに従った。
0117
ファルマシア・テクニカル・ファイル(PHARMACIA Technical File)IEF No.100の記載に従い、上述の実施例5において得られた精製酵素を等電点電気泳動ゲル(ファルマシア(PHARMACIA)社のIEF3〜9)にかけた。
0118
本等電点電気泳動においては、以下のファルマシア(PHARMACIA)比較マーカーを用いた:ペプシノーゲン(2.8)、アミログルコシダーゼ(3.5)、メチルレッド(3.75)、グルコースオキシダーゼ(4.15)、ダイズペプシン阻害剤(4.55)、β−ラクトグロブリンA(5.2)、ウシ炭酸脱水素酵素B(5.85)およびヒト炭酸脱水素酵素B(6.55)。
0119
等電点電気泳動にかけたサンプルは、ファルマシア・テクニカル・ファイル(PHARMACIA Technical File)IEF No.100の記載に従って調製した。
0120
泳動後、分離テクニックファイル(Separation Technique File)No.101(出版番号18-10 18-20 、ファルマシアLKBバイオテクノロジー(Pharmacia LKB Biotechnology)社)に詳述されているプロトコールに従い、クーマジーブルー(Coomassie Blue)でゲルを染色した。
0121
この技術を利用し、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996から分泌されるフェノール酸化酵素の見かけの等電点は2.8より低いことがわかった。
0122
実施例7:スタキボトリス・パービスポラ(S.parvispora)およびスタキボトリス・チャータラム(S.chartarum )のフェノール酸化酵素についての至適pHの測定
50mMのトリス(Tris)、50mMのクエン酸および50mMのNa2HPO4 を含む100mlの緩衝液サンプルを13個用意した。
0123
13個の緩衝液サンプルについて、各サンプルがそれぞれ以下の表1Aに記載しているpHを示すように、HClまたはNaOHを必要に応じて使用し、以下の表1Aに記載しているpHに調整した。
0124
13個の緩衝液サンプルからそれぞれ、0.9mlのサンプルを3個採取した。このようにして、13個のサンプルによって構成される3つのグループ(第一グループ、第二グループ、第三グループ)ができ、各グループは13のpH緩衝液サンプルに対応する各々のサンプルを含む。
0125
次に、以下のようにして混合物に基質を添加した:第一グループの13個の混合物には0.9mMのABTSを添加し、第二グループの13個の混合物には50μMのDMP(2,6−ジメトキシフェノール)(フルカ(FLUKA)社)を添加し、第三グループの13個の混合物には1mMのシリンガアルディジン(シグマ(SIGMA)社)を添加した。
0126
実施例5の記載に従って得られた スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996由来の2EUの精製フェノール酸化酵素を加えることによって反応を開始した。
0127
アッセイした各サンプルの最終容量は1mlであった。
0128
39個のサンプル(表1Aに記載しているpHに調整したもの)のアッセイについては、実施例4に記載しているプロトコールに従い、約20℃、インキュベーション時間2分で行った。
0129
次の波長において2分間吸光度を記録した(ファルマシア(Pharmacia)社製ウルトラスペック・プラス(Ultraspec Plus)):第一グループ(ABTS添加)については420nm、第二グループ(DMP添加)については468nm、第三グループ(シリンガアルディジンを添加)については526nm。
0130
実施例4の記載に従い、1分間にわたる曲線のうちの直線部分から、1分あたりの吸光度の増加率(ΔOD/分)を計算した。
0131
アッセイの結果を以下の表1Aにまとめている。
0132
【表1】
同様の方法でスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )のフェノール酸化酵素についてのpH曲線を得た。50μMのDMPの代わりに5mMのDMPを用いた。総容量0.9mlのABTSアッセイにおいて1.7μgの酵素を使用した。総容量0.9mlのDMPアッセイにおいて17.2μgの酵素を使用した。結果を表1Bに示す。
0133
【表2】
すべての緩衝液サンプルをpH7.0に調整し、基質として、いずれも5mMのs−ジアニジディン(シグマ(SIGMA)社)、3,4−ジメトキシフェノール(フルカ(FLUKA)社)、3,4−ジメトキシアニリン(フルカ(FLUKA)社)、3−メトキシフェノール(フルカ(FLUKA)社)およびベラトリルアルコール(シグマ(SIGMA)社)を用いたことを除き、上記のスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)についてのプロトコールを繰り返した。
0134
ベラトリルアルコール以外は、それぞれの基質について定量的に発色が観察された。
0135
実施例8:ビリルビン酸化酵素との比較
DB1の漂白についてのpH曲線
50mMのトリス(Tris)、50mMのクエン酸および50mMのNa2HPO4 を含む14個の反応混合液(最終容量1ml)を用意し、HClまたはNaOHを必要に応じて使用し、この反応混合物2個ずつについて以下の表2に記載しているpHに調整し、これに、開始吸光度(OD)である1.0(620nm)を示すために必要な量の基質ダイレクトブルー(Direct BlueNo.1)(本明細書においてはDB1と記載しているが、シカゴスカイブルー6B(Chicago Sky Blue 6B)としても知られている)(シグマ(SIGMA)社)を加えた。
0136
実施例5の記載に従って得られたスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996由来のフェノール酸化酵素、またはミロテシウム・ベラカリア(Myrothecium verrucaria)由来のビリルビン酸化酵素(シグマ(SIGMA)社から購入)の4.5EUを各反応混合液に添加することによって反応を開始した。
0137
アッセイした各サンプルの最終容量は1mlであった。
0138
各サンプルのアッセイについては、実施例4に記載しているプロトコールに従い、約20℃、インキュベーション時間2分で行った。
0139
波長620nmにおいて2分間吸光度を記録した(ファルマシア(Pharmacia)社製ウルトラスペック・プラス(Ultraspec Plus))。曲線のうちの直線部分から、吸光度の減少率(−ΔOD/分)を計算した。
0140
アッセイの結果を以下の表2にまとめている。
0141
【表3】
キアコール(quiacol)の酸化
200mMのトリス(Tris)/HCl(pH7.0)および基質として5mMのキアコール(2−メトキシフェノール)(メルク(MERCK)社)を含む反応混合液(最終容量1ml)を調製した。
0142
実施例5の記載に従って得られたスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996由来のフェノール酸化酵素、またはミロテシウム・ベラカリア(Myrothecium verrucaria)由来のビリルビン酸化酵素(シグマ(SIGMA)社から購入)の5EUを反応混合液に添加することによって反応を開始した。
0143
アッセイした各サンプルの最終容量は1mlであった。
0144
各サンプルのアッセイについては、実施例4に記載しているプロトコールに従い、約20℃、インキュベーション時間2分で行った。
0145
波長440nmにおいて2分間吸光度を記録した(ファルマシア(Pharmacia)社製ウルトラスペック・プラス(Ultraspec Plus))。曲線のうちの直線部分から、吸光度の増加率(ΔOD/分)を計算した。
0146
スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996由来のフェノール酸化酵素を用いた場合にはODの増加が記録された(0.05OD/分)が、ミロテシウム・ベラカリア(Myrothecium verrucaria)由来のビリルビン酸化酵素を用いた場合には活性が検出できなかった。
0147
実施例9:様々な染料の漂白
多数の染料について、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996由来のフェノール酸化酵素の基質特異性を調べた。反応混合物には(最終容量1ml)200mMのトリス(Tris)/HCl(pH7.0)および以下の表3に示す染料が含まれているが、吸光度が1.0を示す(波長は以下の表3に示す)ようにこれらの染料の濃度を水で希釈して調整した。反応および染料の名称は色彩インデックスに従った。
0148
実施例5の記載に従って得られたスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996由来のフェノール酸化酵素を添加することによって漂白反応を開始した。直線を得るため、フェノール酸化酵素を水で希釈して量を調整し、OD(波長は表3に示す)の減少の範囲が0.05〜0.25−ΔOD/分になるようにした。
0149
アッセイした各サンプルの最終容量は1mlであった。
0150
各サンプルのアッセイについては、実施例4に記載しているプロトコールに従い、約20℃、インキュベーション時間2分で行った。
0151
表3に示す波長において2分間吸光度を記録した(ファルマシア(Pharmacia)社製ウルトラスペック・プラス(Ultraspec Plus))。曲線のうちの直線部分から、吸光度の減少率(−ΔOD/分)を計算し、上述の実施例5の記載に従って得られた酵素溶液の最終的な漂白率を−ΔOD/分/mlで表すため、希釈倍率をかけた。
0152
結果は以下の表3にまとめた。
0153
別の実験において、クラーク(Clark)電極(ギルソン(Gilson)社製オキシグラフK- IC)をつけたマグネティック撹拌チャンバー内で、各染料の酸素消費率を測定した。オキシグラフチャンバーには200mMのトリス(Tris)/HCl(pH7.0)、5mMの各染料(最終容量2ml)および実施例5の記載に従って得られたスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996由来のフェノール酸化酵素(39EU)100mlを含む。酵素を添加することによって反応を開始し、溶存酸素濃度を5分間記録した。直線部分から傾きを求めた。
0154
本実験の結果も以下の表3にまとめた。
0155
【表4】
これらの結果は、スタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素が酸素を電子受容体とし、メディエーター不在下において異なる化学構造を有する多様な染料を酸化、漂白することができることを示している。
0156
2種の染料(反応性ブラック5およびダイレクトブルー71)については、スタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素によって酸化されるものの、漂白反応は観察されなかった。しかしながら、移染防止テスト(以下の実施例12を参照)においては、反応性ブラック5の移染は明らかに妨げられた。故に、フェノール酸化酵素によって染料が直接漂白されなくても、移染が妨げられるように何らかの変化を受けていると考えられる。
0157
表3に示す結果から、アントシアニン系の天然染料(マルヴィンなど)はフェノール酸化酵素によって効率的に漂白することができることが示されており、このことは、そのようなタイプの染料(たとえば、果物−ワインなど)を含むしみの除去に有効であることを示す。
0158
実施例10:免疫学的特性
実施例5の記載に従って得られたスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996由来の精製されたフェノール酸化酵素を水で2倍に希釈し、この溶液の0.5mlを0.5mlの完全フロインド(Freund)アジュバントと混合し、「抗体(Antibodies)」(1988)(コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory )、ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane)編、105ページ)の記載に従ってウサギの皮下に注射した。各接種の間隔を2週間あけ、この免疫方法をさらに3回繰り返した(計4回行った)。
0159
4回目の接種の2週間後、「抗体(Antibodies)」(1988)(同上、119ページ)の記載に従って抗血清を採取した。
0160
以下のプロトコールに従い、クラウゼン(Clausen),J によって指定された条件下(「高分子の同定および評価に関する免疫化学技術(Immunochemical Technique for the Identification and Estimation )第3版」(1988)、バードン(Burdon ),R.H.およびP.H. バン・ニッペンバーグ(van Knippenberg )編、281ページ(付録11、微量技術(micro technique))、二重免疫拡散試験(オクテロニー(オクタロニー)(Ouchterlony)法)を行った。
0161
クラウゼン(Clausen)(同上、付録10、10.1:微量技術)に記載されている技術に従い、1.7%(w/v)の寒天(結晶状寒天はディフコ(Difco)社、No 0145-17-0)および0.9%(w/v)のNaClを含む2.5mlの溶融拡散培地をのせた4枚の顕微鏡スライド(25mm×75mm×1mm)を用意した。吸引装置を取り付けたテンプレートを用い、各スライドの寒天に5個のウェルをつくった(クラウゼン(Clausen)、同上、付録10、10.1.1.1に記載)。スライド上の5個のウェル(1個が中央にあり、4個が中央のウェルを取り囲んでいる)は、直径がそれぞれ3mm、ウェル間(ウェルの中心から中心まで)の距離は8mmとした。
0162
上述の実施例2の記載に従って得られたスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )MUCL38898をモルト抽出物プレート(Malt Extracted Plates:ME(ディフコ(Difco)社)上で単離した。約30個の滅菌ガラスビーズ(直径5mm)を入れた5mlの0.9%(w/v)NaCl中にそれらのコロニーのうちのひとつを懸濁した。菌糸体の完全なホモジネーションが得られるまで、ボルテックスミキサーを用いてこの懸濁液を十分に振とうした。30gのTSB(トリプティケースソイブロス(Trypticase Soy Broth)、ベクトン・ディッキンソン(BECTON DICKINSON)社)粉末を1Lの水に溶解し、120℃、30分間かけて滅菌した。2個のポリプロピレン製振とうフラスコ(容量2L)にそれぞれ、500mlの滅菌培養培地を入れた。次に、上記の菌糸体懸濁液サンプル1mlをフラスコに加え、常時振とう(偏心距離2.54cmで100RPM)しながら、37℃、96時間発酵を行った。
0163
発酵後、それぞれの振とうフラスコの培養培地を10,000g、15分間遠心分離した。得られた上清を回収し、アセトン沈殿(上清1容量/アセトン3容量)によって各々20倍に濃縮した。次に、この混合物を4℃、45分間、マグネティックスターラーを用いてインキュベートした。得られた懸濁液を再度10,000g、15分間遠心分離し、生じたペレットを除去した。除去したペレットを50mlの水(ミリQ(Milli-Q)ろ過したもの)に懸濁した。ABTSを用いて0.5U ABTSのフェノール酸化酵素活性を測定した。得られた酵素溶液を免疫学的試験に使用した。
0164
スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996由来のフェノール酸化酵素(実施例5の記載に従って得られた)、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )MUCL38898由来のフェノール酸化酵素(以下の記載に従って得られた)およびミロテシウム・ベラカリア(Myrothecium verrucaria)由来のビリルビン酸化酵素(シグマ(SIGMA)社)の0.6EUの酵素サンプルについて、0.9%(w/v)NaClを希釈剤として用い、2倍希釈(酵素1容量+希釈剤1容量)、4倍希釈(酵素1容量+希釈剤3容量)および8倍希釈(酵素1容量+希釈剤7容量)をそれぞれ調製した。
0165
各被験サンプル(希釈したもの)の一定量(10ml)を4個の周囲ウェルに入れ(以下に記載)、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)MUCL38996から得たフェノール酸化酵素活性に対して作出した抗血清中央のウェルに入れた(以下に記載)。スライドガラスを37℃、18時間インキュベートした後、スリットランプを用い、黒色背景上で観察を行った。次のサンプルを含む4枚のスライドを用意した。
0166
【表5】
サンプル1は未希釈のスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)の酵素
サンプル2はスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)の酵素の2倍希釈
サンプル3はスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)の酵素の4倍希釈
サンプル4はスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)の酵素の8倍希釈
サンプル5は未希釈のスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )の酵素
サンプル6はスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )の酵素の2倍希釈
サンプル7はスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )の酵素の4倍希釈
サンプル8はスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )の酵素の8倍希釈
サンプル9は未希釈のミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素
サンプル10はミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素の2倍希釈
サンプル11はミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素の4倍希釈
サンプル12はミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素の8倍希釈
サンプル13はスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)のフェノール酸化酵素とミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素との1/1(v/v)混合物
この試験によって得られた沈降反応の解釈については、クラウゼン(Clausen)(同上、第6章、p.143-146)によって特定されている条件下、記載されているプロトコールに従って行った。
0167
スライドA(スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)のフェノール酸化酵素を様々に希釈したものを含む)の結果は、1型(完全に一致する場合の典型的な状態であるとされている)と定義される型のきれいな沈降弧(または免疫沈降線)を示した(クラウゼン(Clausen)、同上、p.144-146、6.1.2.1を参照)。スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)のフェノール酸化酵素に対する抗血清を作出していることから、この結果は予測されたものであった。
0168
スライドB(等量(EU)のスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )MUCL38898のフェノール酸化酵素を用い、本実施例に既に記載しているものと同一のプロトコールを用い、同一の条件下、同一の試験を実施したもの)の結果は、1型(完全に一致する場合の典型的な状態であるとされている)と定義される型のきれいな沈降弧(または免疫沈降線)を示した(クラウゼン(Clausen)、同上、p.144-146、6.1.2.1を参照)。
0169
スライドC(等量(EU)のミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素を用い、本実施例に既に記載しているものと同一のプロトコールを用い、同一の条件下、同一の試験を実施したもの)の結果は、沈降線が全く観察されず、これは、同一性が全くないと判断される(クラウゼン(Clausen)、同上、p.144-146、6.1.2.1を参照)。従って、ミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素とスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)のフェノール酸化酵素とは免疫学的に全体的にも部分的にも一致しない。
0170
スライドDの結果(フェノール酸化酵素またはビリルビン酸化酵素(フェノール酸化酵素およびビリルビン酸化酵素の等量(EU)は上記の通り)を用いる以外は本実施例に既に記載しているものと同一のプロトコールを用い、同一の条件下、同一の試験を実施したもの)は、ウェル1およびウェル2に加えて、スタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)のフェノール酸化酵素とミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素を含むウェル(ウェル4、ただしウェル3は除く)において免疫沈降線が観察され、従って、スライドCにおいて沈降線が観察されなかったのは、フェノール酸化酵素以外の何らかの原因による阻害によるものではなかったことを確認した。故に、このスライドおよびそれらの結果から、ミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素とスタキボトリス・パービスポラ(S. parvispora)のフェノール酸化酵素とは免疫学的に全体的にも部分的にも一致しないことを確認した。
0171
実施例11:移染防止
酵素系が移染を防ぐ能力については、白い被染用小布を染色された小布と共に洗浄することによって評価した。実験は、5cm×5cmの2枚の小布を入れた25mlの炭酸緩衝液(pH9)中で行った。酵素はABTS(2,2'−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルフォネート))ユニットを単位として使用した。1ABTSユニットとは、20m Mのトリス(Tris)緩衝液(pH9)中に2mMのABTSが存在する状態において、418nmにおける吸光度の増加が1OD/分である酵素量をさす。実験は、洗浄溶液中の濃度が0、0.5、1および2ユニット(u)/mlで行った。酵素活性のエンハンサーとしてフェノチアジン−10−プロピオネート(PTP)を添加した。このエンハンサーは、0、50、100および250μMの濃度で添加した。小布は洗浄液中で30分間振とうした。その後、小布をタンブラーで乾燥し、ミノルタ(Minolta)スペクトロメーターを用いて反射度スペクトルを測定した。得られたデータは、シーラブ(CIELAB)L*a*b*色彩スペースパラメーターに移した。この色彩スペースにおいては、L*は明るさを示し、a*およびb*は彩色の組み合わせを示す。
0172
酵素漂白系を添加しなかった対照小布と、酵素および/またはフェノチアジン−10−プロピオネートの存在下で洗浄した小布との間の色彩の差異を以下の式から計算したΔEで表した:
【数1】
上述の方法によって得られた白さ(ΔL)および色彩の差異(ΔE)を以下の表にまとめた。
0173
【表6】
実施例12:トマトのしみの漂白
スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )のフェノール酸化酵素(実施例4および5に記載している方法によって得たもの)およびエンハンサーの存在下でトマトペーストで汚れた綿の小布を洗浄することにより、本発明のフェノール酸化酵素がしみを漂白する能力を評価した。実験は、15mlのホウ酸緩衝液(pH9)およびリン酸緩衝液(pH7)中で行った。酵素はABTS(2,2'−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルフォン酸)ユニットを単位として使用した。1ABTSユニットとは、20m Mのトリス(Tris)緩衝液(pH9)中に2mMのABTSが存在する状態において、418nmにおける吸光度の増加が1OD/分である酵素量をさす。実験は2.8ユニット/mlの洗浄溶液中で行った。酵素活性のエンハンサーとしてフェノチアジン−10−プロピオネート(PTP)を添加した。このエンハンサーは250μMの濃度で添加した。小布は、30℃、30分間洗浄した。洗浄後、実施例11に従って残っているしみの色彩を測定した。以下の表に洗浄前後において測定した色彩の差異を示す。
0174
【表7】
ΔE値からわかるように、酵素調製物の存在下においてトマトのしみの漂白度合いが増強された。
0175
実施例13:スタキボトリス・チャータラム(S.chartarum )のフェノール酸化酵素のアミノ酸配列解析
実施例4の記載に従って調製したスタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )のフェノール酸化酵素をSDSポリアクリルアミド電気泳動にかけ、単離した。単離したフラクションを尿素およびヨードアセトアミドで処理し、エンドLysC酵素で切断した。エンドLysC酵素切断によって得られたフラグメントをHPLC(逆相モノボア(monobore)C18カラム、CH3 CNの濃度勾配)を用いて分離し、マルチタイタープレートに回収した。各フラクションは、MALDIを用いて質量測定を行い、エドマン(Edman)分解によってシークエンスを行った。以下のアミノ酸配列が決定され、アミノ末端からC末端方向に示す:
N' DYYFPNYQSARLLXYHDHA C'
N' RGQVMPYESAGLK C'
図4および5は、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )のフェノール酸化酵素フラグメントのアミノ酸配列をミロテシウム・ベラカリア(M. verrucaria)のビリルビン酸化酵素およびレプトスリックス・ディスコフォラ(Leptothrix discophora)のマンガン酸化タンパク質のアミノ酸配列と並べて示したものである。
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0176
実施例14:ゲノム核酸のクローニング
ペプチド配列に基づき、2つの縮重プライマーを作成した。プライマー1は次のような配列:TATTACTTTCCNAAYTAYCAを含み、ここで、Nは4種類のヌクレオチド(A、T、CおよびG)すべての混合物を表し、YはTおよびCの混合物を表す。プライマー2は次のような配列を含む:TCGTATGGCATNACCTGNCC。
0177
フェノール酸化酵素をコードするゲノムDNAの単離にあたっては、スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )(MUCL38898)から単離したDNAをPCRの鋳型として用いた。DNAはトリス(Tris)-EDTA緩衝液で100倍に希釈し、最終濃度を88ng/μlとした。10μlの希釈したDNAを反応混合物(総容量100μlの反応液中に0.2mMの各核酸(A、T、CおよびG)、1×反応緩衝液、0.296μgのプライマー1および0.311μgのプライマー2を含む)に加えた。この混合物を100℃、5分間加熱後、2.5ユニットのTaq DNAポリメラーゼを反応混合物に加えた。PCR反応は95℃、1分間行い、45℃、5分間、プライマーを鋳型にアニールさせ、68℃、1分間伸長を行った。このサイクルを30回繰り返し、ゲルで見ることができる量のPCRフラグメントを得た。アガロースゲルで検出したPCRフラグメントは約1kbのフラグメントを含んでおり、次にこれをプラスミドベクターpCR-II(インヴィトロジェン(Invitrogen)社)にクローニングした。1kbの挿入体について核酸のシークエンスを行った。推定ペプチド配列がエドマン(Edman)分解によってシークエンスした上述のペプチド配列と一致したことにより、シークエンスデータから、この遺伝子が スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )をコードすることが明らかになった。5'遺伝子および3'遺伝子を含むPCRフラグメントを単離、シークエンスした。プロモーター配列およびターミネーター配列を含むスタキボトリス(Stachybotrys)属の酸化酵素の全ゲノム配列(SEQ ID NO:3)を図8〜10に示す。
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0178
実施例15:スタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素をコードするcDNAのクローニング
スタキボトリス・チャータラム(S. chartarum )(MUCL38898)株をラッカーゼ産生培地で増殖させ、菌糸体からRNAを抽出し、cDNA単離用の鋳型として使用した。20μlの反応液中(0.34μgのオリゴdT18プライマー、0.5mMの各核酸(A、T、CおよびG)、20ユニットのRNA阻害剤および100ユニットの逆転写酵素を含む)、4.3μgのRNAを用い、逆転写酵素によって全cDNAを合成した。2段階のPCRにより、スタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素をコードするcDNAをクローニングした。はじめに、次の2つのプライマー:GTCAATATGCTGTTCAAGおよびCTCGCCATAGCCACTAGGを用い、5'cDNAを678bpのフラグメントとしてクローニングした。次に、次の2つのプライマー:CTTTCGATGGTTGGGCTGおよびGTTCTAGACTACTCCTCGATTCCAAGATCを用い、3'cDNAを1301bpのフラグメントとしてクローニングした。1791bpのcDNA配列を図6および7に示す。
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0179
実施例16:スタキボトリス・チャータラム(S.chartarum )のフェノール酸化酵素のゲノムDNAとcDNAとの比較
ゲノムDNAとのcDNAの比較から、ゲノムDNAには5個のイントロンが存在することが明らかになった。タンパク質の転写開始部位(ATG)はヌクレオチド番号1044番〜1046番であり、転写終了部位はヌクレオチド番号3093番〜3095番である。cDNAおよびゲノムDNAから翻訳されたタンパク質の配列には594個のアミノ酸を含んでいた。
0180
スタキボトリス・チャータラム(S.chartarum )のフェノール酸化酵素と他の酸化酵素との比較
タンパク質配列SEQ ID NO:2を対象とし、GCG(遺伝子コンピューターグループ大学リサーチパーク(Genetics Computer Group University Research Park)、ウィスコンシン州マディソン)のDNAおよびタンパク質データベースを調べた。これによれば、スタキボトリス(Stachybotrys)属の酸化酵素は、タンパク質配列レベルにおいてビリルビン酸化酵素と60%一致していることが示された。図11に2つのタンパク質の配列を並べて示す。
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0181
実施例17:アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillusnigervar.awamori)におけるスタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素の発現
新規に導入した2つの制限酵素認識部位(Bgl IIおよびXba I)によって切断したスタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素をコードする核酸を含むDNAフラグメントをPCRによって単離した(図13および14)。まず、このPCRフラグメントをプラスミドベクターpCR-IIにクローニングし、核酸のシークエンスを行い、遺伝子配列を確認した。次に、このDNAフラグメントをベクターのBgl II〜Xba I部位にクローニングした(pGAPT、図12を参照)。スタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素の発現に用いたベクターは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のグルコアミラーゼ遺伝子のプロモーター(塩基番号1番〜1134番)およびターミネーター(塩基番号1227番〜1485番)、マルチクローニング部位(塩基番号1135番〜1227番)、菌類の形質転換に関する選択マーカとしての偽巣性麹菌(Aspergillus nidulans)のpyrG遺伝子(塩基番号1486番〜3078番)、ならびに大腸菌(E. coli)内での発現のためのpuc18プラスミドバックボーンを含む。次に、標準的なPEG法を用いて、pGAPT- gDO104と称される発現プラスミドをアスペルギルス(Aspergillus)属(菌株dgr246: p2、Appl. Biotechnol, 1993, 39: 738-743)内に形質転換した。ウリジン不含プレート上で形質転換体を選択した。40個の形質転換体をCSAプレート上で増殖させ、次に、マルトースを含むCSL特別培地を入れた振とうフラスコに移した。CSAプレートには1g/LのNaH2PO4・H2O、1g/LのMgSO4、50g/Lのマルトース、2g/Lのグルコース、10g/Lのプロモソイ(Promosoy)、1ml/Lのマーズ(Mazu)および15g/Lのバクトアカー(Bacto Agar)を含む。CSL培地については、ダン−コールマン(Dunn- Coleman)ら、1991, Bio/Technology 9: 976-981に記載されている。CSL特別培地とは、グルコースとフルクトースを除いたCSL培地である。3、6および10日目にABTSアッセイを行った。形質転換体はまずCSL培地で増殖させ、1日増殖させた後、クロファイン(Clofine)特別培地に移した。6日増殖後、これらのサンプルについてABTS活性を測定した(>0.2ユニット)。高い活性を示した5個の形質転換体については、クロファイン(Clofine)培地で8日間増殖させた後、芽胞精製し、再度ABTS活性を測定した(>5ユニット/ml)。図15は、SDSタンパク質アクリルアミドゲルであり、CSL特別培地中で6日間培養したアスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)内における組換えスタキボトリス(Stachybotrys)属酸化酵素の発現レベルを示している。
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0182
実施例18:トリコデルマ・レーセイ(Trichodermareesei)中におけるフェノール酸化酵素の発現
トリコデルマ・レーセイ(Trichoderma reesei)の形質転換に使用した発現プラスミドは以下のように構築した。図13および14に示すBgl II〜Xba Iフラグメント(これは、スタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素をコードする遺伝子を含む)の末端をT4 DNAポリメラーゼで平滑化し、トリコデルマ(Trichoderma)発現ベクターであるpTrex(これはpTEXを変形したもの、pTEXベクターの調製に関する完全な記載はPCT公報WO 96/23928号を参照のこと。この公報を参考として本明細書中に取り入れておく)のPme I制限酵素部位に挿入した。このpTrexベクターは、遺伝子発現のためのCBH1プロモーターおよびターミネーター、ならびに形質転換体の選択マーカーとしてトリコデルマ(Trichoderma)のpyr4遺伝子を含んでいる。CBH1プロモーター、スタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素遺伝子、CBH1ターミネーターおよびpyr4選択マーカーのみを含む直鎖DNAフラグメントをゲルから単離し、これを用いて、4個の主要なセルラーゼ遺伝子が欠失しているトリコデルマ・レーセイ(Trichoderma reesei)のウリジン要求性株を形質転換した(米国特許第5,472,864号を参照)。ウリジン不含のトリコデルマ(Trichoderma)最少培地上において安定な形質転換体を単離した。振とうフラスコに入れた50mlのプロフロー(Proflo)培地にこの形質転換体を加え、28〜30℃、7日間増殖させ、ABTS(>0.2ユニット/ml)およびSDS-PAGEタンパク質ゲルによってフェノール酸化酵素の発現をアッセイした。プロフロー(Proflo)培地には、22.5g/Lのプロフロー(Proflo)、30.0g/Lのラクトース、6.5g/Lの(NH4)2 SO4 、2.0g/LのKH2 PO4、0.3g/LのMgSO4・ 7H2O、0.2g/LのCaCl2 、0.72g/LのCaCO3、1.0ml/Lの微量金属ストック溶液および2.0ml/Lの10%ツイーン(Tween)80を含む。微量金属ストック溶液には、5.0g/LのFeSO4・ 7H2O、1.6g/LのMnSO4・ H2O、1.4g/LのZnSO4・ 7H2O、2.8g/LのCoCL2・ 6H2Oを含む。
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0183
実施例19:麦酒酵母菌(Saccharomycescerevisiae)におけるスタキボトリス(Stachybotrys)属のフェノール酸化酵素の発現
フェノール酸化酵素のcDNAのBgl II〜Xba Iフラグメント(SEQ ID NO:1)を酵母発現ベクターyES2.0(インヴィトロジェン(Invitrogen)社)にクローニングした。このベクターは、フェノール酸化酵素の発現を調節するための酵母のGal 1プロモーターおよびCyc1ターミネーター、ならびに選択マーカーとして酵母URA3遺伝子を含む。発現プラスミドを酵母の菌株(インヴィトロジェン(Invitrogen)社)、Sc2株)に形質転換した。ウリジン不含の酵母最小培地上において形質転換体を選択した。プレートアッセイ(1mMのABTSを含む酵母最小プレート上に着色ハロを形成させる)においては、任意に採取した4個の形質転換体が活性を示したが、対照プラスミドベクターは着色ハロを全く形成しなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 スタキボトリス・パービスポラ(Stachybotrys parvispora)由来のフェノール酸化酵素による種々の発色団の酸化に関するpHプロファイル
【図2】 スタキボトリス・パービスポラ(Stachybotrys parvispora)由来のフェノール酸化酵素とミロテシウム・ベラカリア(Myrothecium verrucaria)由来のビリルビン酸化酵素との間で比較した、ダイレクトブルー1の脱色に関するpHプロファイル
【図3】 SDSポリアクリルアミドゲルによって測定したスタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素の分子量
【図4】 スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素(St.ch.と表記している)の断片のアミノ酸配列をミロテシウム・ベラカリア(Myrothecium verrucaria)由来のビリルビン酸化酵素(biliru oxidasと表記)およびレプトスリックス・ディスコフォラ(Leptothrix discophora)由来のマンガン酸化タンパク質(mpf-Aと表記)のアミノ酸配列と並記
【図5】 スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素(St.ch.と表記している)の断片のアミノ酸配列をミロテシウム・ベラカリア(Myrothecium verrucaria)由来のビリルビン酸化酵素(biliru oxidasと表記)およびレプトスリックス・ディスコフォラ(Leptothrix discophora)由来のマンガン酸化タンパク質(mpf-Aと表記)のアミノ酸配列と並記
【図6】 スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素の核酸配列(SEQ ID NO:1)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)
【図7】 スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素の核酸配列(SEQ ID NO:1)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)
【図8】 スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素のゲノム配列(SEQ ID NO:3)
【図9】 スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素のゲノム配列(SEQ ID NO:3)
【図10】 スタキボトリス・チャータラム(Stachybotrys chartarum)由来のフェノール酸化酵素のゲノム配列(SEQ ID NO:3)
【図11】 スタキボトリス(Stachybotrys )属由来のフェノール酸化酵素のアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)とビリルビン酸化酵素(SEQ ID NO:4)のアミノ酸配列
【図12】 アスペルギルス(Aspergillus)内においてスタキボトリス(Stachybotrys )属由来のフェノール酸化酵素を発現させるために使用したベクターpGAPT
【図13】 アスペルギルス(Aspergillus)内において発現したスタキボトリス(Stachybotrys )属のPCR断片の核酸配列
【図14】 アスペルギルス(Aspergillus)内において発現したスタキボトリス(Stachybotrys )属のPCR断片の核酸配列
【図15】 スペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)内における組換えスタキボトリス(Stachybotrys)属酸化酵素の発現レベルを示すSDSアクリルアミドゲル
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